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    再度上京して前いたことのある病院に書生として住みこんだ房一は、まつしぐらに一つの目的に突進した。その最初にあんなに不安定な時期があつたにもかゝはらず、三年後には前期と後期の二試験をつゞけさまにパスして、医師としての資格を得た。その間に彼を鼓舞したものは実にはじめ伯父を訪れたときにその家の書架から発見した「西国立志篇」だつた。その本はもう何度となく読みかへされたので、頁がぼろぼろになつた。それから何年間か代診としてその病院に勤めた。その間に開業の資金を貯蓄したい考へだつたが、なかなかうまくはいかなかつた。かへつて少しの放蕩の結果、芸者に子供を産ませたりして、その方は曲りなりにも片づいたが、貯へは費ひ果してしまつた。しかし、開業の資金は故郷の伯父が工面してくれることになつたので一安心だつたが、その代りに河原町に帰つて開業すること、と云ふ条件がついていた。

    うまい工合だと感じた房一はすかさず云つた。

    「よからう」

    あのことだな、と房一は思つた。訊いてどうかな、とは感じたが、相手があまりさつぱりしているので、

    徳次は自分のことのやうに熱心に路順を考へた。

    又走り出して、草の中に鼻を突つこんだ。が、今度はすぐもどつて来た。房一は緊張した表情をつくつて、その背をつかんでぐつと押した。

    「ねえ、高間さん。まあ、こつちへお寄んなさい」

    「うん、何かア」

    「本当も本当でないもありやしませんよ。財産譲渡無効、その返還を請求したのだよ」

    と、鬼倉はすつかり他意のない様子で答へた。

    さう云ひすてて、大きな音を立てて下駄をひきずりながら立去つたのだ。

    「血圧は少し下つたしね」

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